<特攻隊>
基地ではいろいろなことがあったが、その間にも敵機襲撃で数少なくなった飛行艇で毎夜夜間索敵が続けられた。ちょっと前までは5機くらい発進できたのに、今では1機くらいがやっと。あとは修理や何かでさびしい限りである。盛んな頃は8~10機くらい発進した時もあった。1機に10~12名くらい乗るから、100人近い搭乗員が整列・・見事なものだった。若人のかけるきびきびした番号、飛行整列報告・・活気にあふれていたものだ。数が少なくなっても日本国のためとやっぱり張り切っていた。私達の夜間索敵出発、搭乗員整列の時、一人足りない。誰だと考えてみたらK兵曹だ。しばらく待っても来ないし、兵舎にもいない。変だ。後でわかったことだが、原因は、飛ぶ前の機底のガソリンタンクの点検をやっているうちに、ガソリンで酔ってしまったのだった。良い気持ちになり、グウグウ寝込んでしまったのだ。K兵曹は射撃及び搭乗整備員だった。
詫間基地もいよいよ全員特攻隊になった。いよいよ来たるべきものが来たという感じである。零式三座水上偵察機が毎日のように800キログラムの爆弾を下げて飛び立っていく。基地の全員が見送りに出る。征く者、送る者、皆感激だ。帽子を振り、最後の別れをする。バンザイバンザイの連呼、勇ましい光景だ。征く者、送る者、もう何も考えていない。ただ日本の勝利を祈るのみ。皆の前を静々と滑台を降りていく。やがて水面に浮かび、エンジンの音高らかに滑水していく。予定出発点より離水に移る。800キロの爆弾をつけているせいか、重たくてなかなか浮上しない。何回も何回もやり直しをしながら離水、上昇・・山すれすれだ。基地上空を何回も旋回、別れを惜しむ。そして敵艦船に突っ込むべく南の空へ消えていった。