<敵機来襲>
基地では相変わらず毎日夜間索敵が行なわれていた。そして日増しに未帰還機が・・毎夜のように出た。敵機動部隊の夜間戦闘機にやられてしまうのだ。したがって搭乗員の消耗が激しかった。向こう側の食卓も隣りの食卓も・・ポツンポツンと帰らぬ主を待っているが如くさびしげに・・。私も夜間索敵に何十回と出撃したが、ある夜飛び立って数十分もたたないうちに、電波探知機(レーダー)が故障してしまった。直ちに基地に帰り、待機していた交替機に飛び立ってもらった(レーダーの故障を修理したり、搭乗員が他の飛行艇に乗り移っていると時間ばかり食うので、予備の交替機がいつでも飛べるよう基地に待機している)。そして私達の飛行するコースを飛んで行ったが、次の朝になっても交替機は帰ってこなかった。とうとうやられてしまったのだ。私達が行っても同じくやられていただろう。私達の身代わりになったのだ。何となく嫌な気持ち・・すまない、許してくれ!!我悪運強し!!身代わりになって死んでいった友の分まで皇国のためがんばるぞ・・とファイトが盛り上がってきた。
朝の朝礼の時飛行長(少佐)から「皆聞け!!米国の大統領ルーズベルトがくたばった!!」と話あり。赤い顔した飛行長がグーッと皆の顔をにらみつけ、「だから皆も皇国のため一生懸命やれ!!」と訓示された。
ある日基地で作業していたら、突然敵機の銃撃に会い、身を隠すところがないので、H君とすぐ近くの排水の溝にかかっているコンクリートの橋の下へ潜り込んだ。上ではアメリカ戦闘機ヴォートF4Uコルセア艦上戦闘機が乱舞、銃撃を繰り返している。溝の中では音が大きく聞こえる。機銃の音、エンジンの音、対空砲火の音がものすごく、もう生きてる心地なし。思わず手で耳を押さえる。中へ流れ弾が入ってくるのではないか・・恐怖の絶頂だ。数十分入ったきり外へも出られない。飛行艇基地なので戦闘機が舞い上がってくることもない。敵はいいように銃撃を繰り返す。こんな時飛行艇の7.7ミリの機銃を外し、応戦すれば怖いことないのだが(敵機を3機撃墜すると特別休暇が出て、家への外泊が許された)、敵機は格納庫の中を見て飛行機の有無を確かめ銃撃してくる。