<基地調査>
戦局が切迫してきたので、北日本に基地を設けようとして、基地調査に行くことになった。2式大艇の古いので出発した。能登半島の七尾、舞鶴、宍道湖、隠岐の島、朝鮮の鎮海の順であった。飛行艇はT61を選び、七尾まで飛び、七尾湾に着水した。
商船学校の生徒がカッターを漕いでくる。初めて側で見る大きな飛行艇にびっくりしていた。離水、着水と調査し、湾内の広さを確かめた。その日は波も静かで天候も良く、気持ちの良い日だった。ここより故郷高田まではひとっ飛びだが、戦時中でもあり、許されぬことである。空から見る高田、上空よりの詫間・・頭の中にいろいろと浮かんでくる。
そんなことを考えているうちにいよいよ今度は舞鶴だ。ここは海軍の軍港だ。そして航空隊は予科練第2次試験をやったところだ。懐かしい緑の湾内、緑の山々。美しい沖の方へ着水、水上滑走で航空隊に錨を降ろす。2年前ここへ来たのだなあ・・。あの頃は合格するかしないかわからぬ時だし、頭上をかすめて94式水偵機が離着水の訓練をしていたわい。道場で3日間寝泊まりしていろいろの試験を受けたり、海軍の山盛りの食事にびっくりしたり。思い出多きところだ。まだ生命あって再び訪れたのだ。懐かしい。夕食は隊で御馳走になり、全員汽車で隣りの宮津へ行き、旅館に泊まる。再び大酒盛りが始まる。時間のたつのも忘れて飲み明かす。私達搭乗員は外出も酒宴も一緒だ。そして死ぬ時もだ。
翌朝無事舞鶴を離水し、一路島根県宍道湖へ向かう。舞鶴を飛び立つとすぐ天の橋立だ。日本三景の一つだ。これで厳島と天の橋立と二つ見たわけだ。なるほど上空からの天の橋立は名勝だけあって確かに美しい。しばらくうっとり・・。絵に描いたようだ。そのうちに鳥取県へ入る。鳥取の沿岸は気流が悪く飛行機はよくゆれた。いよいよ次の目的地宍道湖が見えてきた。この辺では大きな湖だ。何だか湾内か海の一部のように見える。